BBC Sportのエンゲージメントを可視化する試み
BBCではコンテンツの多様化が進むにつれ、クリック数だけではユーザーの関心やエンゲージメントを正確に捉えきれないことが明らかになってきました。たとえば、記事が1秒間表示されただけでは、実際に読まれたとは言えません。こうした課題に対応するため、同社のデータチームはPianoを基盤に、より高度で有効な独自指標を開発しました。
2021年、BBC Sportは、ユーザーの平均的な読書速度(1分あたり987文字)と、通常の投稿の長さ(約250文字)をもとに分析を行いました。その結果、短い投稿を読むのに必要な時間は平均で約15秒と算出されました。このインサイトをもとに、同チームは「ドウェルイベント」と呼ばれる独自指標を開発しました。これは、コンテンツがユーザーの注意を15秒以上引きつけた場合に記録されるものです。
Pianoのカスタムイベントとカスタム指標を活用することで、「ドウェルイベント」はBBCにとって新たな重要指標となりました。これにより、編集チームはコンテンツの種類・長さ・テーマごとに最も高いエンゲージメントを生み出す要素を特定し、プロダクトチームはユーザーのナビゲーション動向やページレイアウトの効果、スクロール深度やページネーションなどの分析を行いました。こうした取り組みにより、BBCはユーザーの関心を素早く把握し、それに応じたコンテンツの最適化を継続的に図っています。
さらに一方で、BBCのスタッフは、Pianoのリアルタイムダッシュボードを活用し、コンテンツの「ドウェルイベント」パフォーマンスに関する即時フィードバックを得ています。このツールを通じて、分析担当者、制作チーム、記者たちはインサイトを迅速に共有し、意思決定に役立てています。また、BBCでは毎月1,000人以上のスタッフがPiano Analyticsにログインして業務に活用しており、その高いユーザービリティも魅力の一つとなっています。
このように、組織全体でビジネスに関する共通指標をチーム内で共有・連携することで、大きな成果に繋がっています。「ドウェルイベント」指標の導入後、平均週次ユニークユーザー数は前シーズン比で28%増加し、1回の訪問あたりの平均滞在時間も106%という驚異的な伸びを記録しました。
AT&Tのパーソナライズ体験への取り組み
Critical Massは、オムニコムを代表する著名なデジタルエージェンシーであり、最新のテクノロジーを駆使して、世界中のクライアントに先進的なサービスを提供しています。
同社のクライアントであるAT&T Communicationsは、米国内で1億人以上の消費者にモバイルおよびブロードバンドサービスを提供しており、多様なニーズを持つ幅広いターゲット層に対応しています。
Critical Massは、Pianoをコミュニケーションテックスタックおよびプロセスの一部として活用し、これまでにないスピードで大規模かつパーソナライズされたキャンペーンを実現しました。
Critical Mass(CM)は、AT&TのFiberキャンペーンにおいて、従来の汎用的なメッセージングから、地域ごとにセグメント化されたオーディエンスに合わせた、パーソナライズされたデジタル体験へと移行し始めました。しかし、ハードコード化された複数ページの管理が非常に難しくなったため、CMは手軽に検証しデータを収集できるソリューションを求め、Pianoに注目しました。
CMがPianoを活用してAT&T向けに構築したものは、単なるキャンペーンの枠を超えた、ひとつのシステムとなりました。CM自身の言葉を借りると、このアプローチは「常に稼働し、常に学習し、常に進化し続けるプログラム」であり、AT&Tのファイバービジネスを支えています。
Piano Composerを活用し、CMは四半期ごとに40以上の異なるAT&Tユーザー体験を提供しています。これらの体験は、郵便番号や流入元、新規・リピーター、検索キーワードなど10の要素で細かくセグメント化され、個別に最適化された内容が自動で検証・効果測定されています。
ComposerをHygraph(クリエイティブ要素を一元管理するヘッドレスCMS)に接続することで、CMはオファーのバリエーション、クリエイティブ、オーディエンスターゲットを迅速かつ手間をかけずに展開できるようになりました。その結果、キャンペーンの更新スピードが以前の10倍以上に向上したと報告されています。
その後、CMはPiano Analyticsを活用して結果をリアルタイムで追跡し、クリック率がこれまでに24%向上したことが確認されています。この成果は、CMが手がけた優れたクリエイティブと綿密に設計されたプロセスによるものであり、Pianoはその基盤を支える存在として貢献できたことを嬉しく思います。
エンゲージメントを最大化するレコメンド基盤の構築
フランスのスポーツ専門日刊紙「L’Équipe」は、ブランド認知においてある課題を抱えていました。サッカーに関する圧倒的な報道力が評価される一方で、他のスポーツが脇役扱いされているような印象を読者に与えてしまっていたのです。
ユーザーから「特定分野に特化しすぎている」と見なされたとき、企業はどのようにバランスを取り直すべきなのでしょうか?
ラグビーやモータースポーツ、サイクリングなど、L’Équipeは他のスポーツも同様に高いクオリティで報じていたものの、そうした分野の存在感は次第に埋もれ、幅広いスポーツを網羅するフランス屈指の情報源としての立場が揺らぎ始めていました。ユーザーから寄せられるフィードバックには、「サッカーの記事ばかりでがっかりした」「なぜいつもサッカー中心なのか」「サッカー、サッカー、サッカー……」といった声が目立つようになっていきました。
L’Équipeのデータチームとエンジニアチームは迅速に対応し、Pianoから得られたデータを活用して新たな方針の模索を始めました。最初に着手したのは、サイト内で従来型のコンテンツレコメンデーションを行い、ユーザーを別のコンテンツへと誘導する施策でした。しかし、常にサッカー関連の記事が最も人気だったため、レコメンデーションエンジンはその傾向を助長し、結果的にさらに多くのサッカー記事への誘導を強めてしまっていました。
そこで同社は、多様なデータをすぐに活用できる柔軟性を活かし、素早く試行錯誤を重ねました。具体的には、サッカー記事の掲載数に応じてリファラルスコアを調整するアルゴリズムをテスト。これにより、コンテンツの一人当たりの人気をより適切に評価することが可能になりました。
その成果は目覚ましく、読者の多様なニーズに応えると同時に、クリックされやすい記事を効果的に表示できるようになりました。Piano Analyticsは開発を支える主要なデータソースとして機能しただけでなく、施策の成果を正確に測定する役割も果たしました。その結果、プッシュ通知のクリック数は30倍に、ホームページ上のコンテンツのクリック数は27倍にまで伸びました。
L'Équipeとの協業において、最もやりがいを感じたことの一つは、同社のデータチームが成長していく過程を間近で見届けられたことです。数年前、他部署向けにデータ分析を行う小さなチームとしてスタートした彼らは、現在では複数のデータサイエンティストとデータ責任者を擁し、事業の差別化と成長を担う大きなチームへと成長を遂げました。こうした成功の一端を支えることができたことを、Pianoは誇りに思っています。